闇に生まれし者(2)
真っ黒な鱗で覆われた体は、闇夜にもかかわらず怪しく光る。魚のように横に張った目が、ザジを凝視する。
「ホブヤー…」
戸惑いが走る。何故このような場所に、こんな高位の魔物が?
考えている暇は無い。体制を立て直す。
「グッ」
奇妙な叫びと共に、魔物はザジに向けて文字通り飛びついた。
ギュイイインと空気が切れる音が響く。あまりにも瞬速。
ザジは翼を収め、瞬間的に横に避ける。
「あ、ぅ…」
魔物の爪が、ザジの左手を裂く。鮮血が手をつたう。
幸い大したダメージは無い。翼を広げ、上空へ。
あのランクの魔物を倒すのは、自分では力不足。
しかし、ほうっておけば生徒に危害が加わる。
もしかしたら3−Aのクラスメートにも…
「…させない」
再び降下。
「el tuerate mariaraiza…burs!」
手を開く。爪が伸びる、揺れる。まるで生き物のように、ザジの手は凶悪な武器へと変貌した。
魔物はゆっくりとザジを見上げる。表情の無い顔が、緩む。まるで笑っているかのように。
急降下して魔物へと一直線にザジは向かう。振り上げた手が光を放つ。そして、魔物めがけて振り下ろす。
激突の刹那、光が周辺を包む。
「…っ」
苦痛。ザジの放った一撃は鱗にわずかな傷を付けて弾かれ、武器は魔物の手中におさまった。
魔物は武器を壊そうと力をこめる。ものすごい力、動けない。
「っ、あああっ」
悲鳴は夜に木霊し、消えていく。人払いの魔法をかけた空間に、人の姿は無い。
たった一人の戦い。状況を打破できるのは、自分のみ。
後悔などするものか。
魔物の表情がふたたび緩む。勝利への確信か、単なる恍惚か。
再び光。
「ラ・ステル・マ・ステル・マギステル 闇夜切り裂く一条の光、我が手に宿りて敵を喰らえ 白き雷!」
光。強く輝き、稲妻のように駆ける。次の瞬間、ザジの武器は開放される。
「ゴ…」
魔物の手がザジから離れる。開放されたザジに歩み寄る光の主。
見慣れた顔。どうして…
「ザジさん!大丈夫ですか?」
「ネギ先生…」
見られた
「わけは後で聞きます。ザジさん、ここは僕にまかせてください」
「駄目」強く言い放つ。
「先生一人では無理。私と一緒に…」
見つめる。どうしたんだろう、この気持ち。
一人では行かせない。行けば死んでしまうかもしれない。気持ちが言葉になる。
「私と一緒に戦って」
「…はい!」
魔物が動き出す。こちらを振り向く。先ほどまでとは違う。表情が読み取れる。
強い怒り。憤怒。
上体を大きく後ろに反らし、動きを止める。
空気が弾ける。二度も同じ手は通用しない。
翼は閉じない。ネギ先生を抱いて、上空に。
行き場を失った力は暴走し、背後の大木をなぎ倒した。
「地上では速いけど、空は飛べないみたいですね。攻撃手段も持ってないようです。上空から攻撃すれば…」
「駄目。至近距離からでないと、あの鱗が全てはね返す」
ホブヤーの鱗は全ての攻撃を拒絶する。あの鎧を壊さなければいけない、しかし…
「私の攻撃ではあれは壊せない」冷静に分析。私では力不足。
周囲を覆う結界はもうじき解ける。解き放たれた魔物は、何処へ向かうのだろう。
ネギ先生を見つめる。
「…」思わず言葉につまる。笑顔。
何故だろう。こんな状況なのに…。
「ザジさん、壊さなくてもいいんですよ」
ホブヤーを一瞥し、私に向き直る。
「作戦があります」
長くなったのでまだ続きます。文章で戦闘シーンに挑戦してみたくて
書いてみましたが、シチュエーションがありきたりにならないように心がけてみました。
ちなみにホブヤーというのは、ゴブリンとかの妖精の一種で、イギリスに伝わる悪い精霊です。
これを書くにあたって敵役を妖怪、妖精、精霊なんかの辞典から探してみたんですが、
「突然現れて人間に対して悪さをする」とか、悪役として描かれているので選んでみました。